THIS  MONTH  INTERVIEW

vol.4山田 晃三Kozo Yamada|工業デザイナー

送り手と受け手の関係が成立する装置
Q1 間接照明はすきですか?

僕は、「間接」という言葉に極めて興味があります。例えば、受験の合格発表で不合格を親に伝える時に、「不合格だった」と電話をするよりも、「サ ク ラ チ ル」とひと言電報を打つ、そういう文化に惹かれます。日本人は桜という花の性質を知っているから、思いきり咲いて見事に散った姿が、受験勉強で頑張った姿に重なる。つまり、受け取る側の解釈によって想像が膨らむのです。また人は気持ちを伝えるために道具を使うことがあります。好きだという気持ちを物に託したりして、アナロジー(類推)として伝える。その感覚を持っている唯一の生き物が人間。「直接」は、万人に分かるかもしれないけれど、そういう伝達の仕方よりも、少し考えてみないとわからない、努力して理解しようとする「間接」のコミュニケーションの形が好きだし、それこそが日本人が大切にしてきた文化だと思います。そんな「間接」という概念が大好きですね。

Q2 今まで、一番美しい、かっこいい、感動を覚えた間接照明は何ですか?

満月の光です。「直接」と「間接」の関係を照明に当てはめて考えてみると、太陽と月の関係が明快です。かつてこの地球上には、この二つの照明しかなかった。僕は太陽よりも月から多様なことを教わった。月の持っている不思議さってとても奥が深い。月はすべての生き物に大いなる幻想を投げかけています。若かりし日、好きな女性と夜の山に登った時のこと。真っ暗な闇の世界で、満月の光に照らされた彼女の容姿は、今まで見たことがないくらい美しかった。見えなくていいものは見えない、見えてほしいものだけが良く見えるのです。衝動的に一緒になりたいと思った。満月の下で人は狂う、といいますが、まさにその通り。これはあの彼女だったからかな?と思ったのですが、後に今のかみさんでも同様に満月の下で実験したらやっぱり同じだった(笑)。僕はその2回の体験で、満月の力を確信したのです。考えてみれば、新月から満月まで、照明そのものが輪廻するなんて異常ですよ。どんどん大きくなっていき、また小さくなって消えていく。原始の時代、これに生命の神秘を思わずにいられない。月によって狂った人間をルナティック=精神異常というけれど、命って本来はもっと自然に寄り添うもので、月の下で狂うのは、生命を育む上で極めて正常なことなんです。

Q3 間接照明の肝、または苦々しい思い出を教えてください

GKデザイングループは、おもに工業製品をデザインする会社です。人間が猿から人になった時に道具と言語を獲得し文明が生まれました。道具は間接的なものです。本来手で水をすくって直接飲んでいたけれど、間接的な道具として器ができた。つまり、もう一つの手を用意することで、この湯呑みは「ようこそおいでくださいました」という気持ちも暗喩している。私達は、道具をただ便利にするだけの物ではなくて、人の気持ちを置き換えて伝えるものとして捉えています。間接照明の肝とは、「どういうメッセージを伝えるべきか」「受け取ってもらえるか」、その思いを配慮して計画しないといけない。媒介となるものを通して暗喩を投げかけるのですから、発する側、受け取る側の能力とをよく計算したうえで、照明といえどもどんなメッセージを送りたいのか考えることが大切だと思います。

Q4 これまで手がけた作品と照明計画のポイントを教えてください

「ささきつりぐ」は広島市にある三代続く釣り具屋です。屋上に「月のサイン」をデザインしました。月面のフィルムの後ろにLEDを仕込み、365日その日の月の形が変化するように月を光らせています。釣り具屋には、潮見表というものがあります。満潮の前後は少々気が狂う魚がいるためよく釣れる。潮見が必要であることから月をモチーフとしたのです。しかし一方で僕らの日々の暮らしにおいても、月が多くのメッセージを投げかけてくれていることを、いま一度考えてみたかったのです。GKは、バイク、自動車、電車、飛行機などの乗り物も数多く手がけています。昨年導入された「日本航空国内線JAL SKY NEXT」の機内デザインにおいては、間接照明を用いて昼と夜、心理状態、さらに季節を考慮した光をプログラミングして、その時に最適な光を演出しています。通勤電車では最低限の機能を満たすために直接照明が多いのですが、グリーン車や飛行機ではゆったりと落ち着き、考えることができる時間を提供するために間接照明を採用するのが一般的です。時の流れをゆっくりさせる。

LUNA SIGN 京橋ささきつりぐ「月のサイン」
きょうの月齢に合わせ3000個のLEDが毎夜パターン点灯する。観る人に潮汐や季節感など月の持つ多様な情報を発信する。「釣り」を扱う店舗ゆえに、都市との接点に月を掲げ、自然のリズムそのものをランドマークとした。日本サインデザイン賞2007年優秀賞。

JAL SKY NEXT 日本航空株式会社「国内線インテリアデザイン」
全クラスシートを新設計本革仕様としLED照明の採用など「ひとつ先のスタンダード」を狙った。機内照明は「デイクルーズモード」「ナイトクルーズモード」など日本の四季に合わせた多様なプログラムを組み込む。日本グッドデザイン賞2014年ベスト100。

Q5 今後の夢を教えてください

道具(モノ)とは、身体の延長線上にある代用品。例えば足の延長線上に靴があり、自転車があり、車があって、新幹線になる。つまり道具とは自分の分身を作ることでもある。心臓の変わりに動力(エンジン)が生まれ、産業は大きく発展してきました。さらに20世紀の終わりには、コンピューターによって記憶や計算の能力が頭の外に取り出せるようになりました。道具と人間の関係、マシンと人間の関係、環境と人間の関係を考えていくと、どこかで人間は自然と完全に切り離されて別なものになってしまう可能性がある。ITとバイオテクノロジーの進歩からみると、それは間近ですよ。僕はこの現実を考えてデザインをし続けたい。デザインって、遥か遠い過去と遥か遠い未来を行ったり来たりして、今なにをすべきかを提示すること。人として失ってはならないメッセージを、いろんなものを通して伝えていきたいですね。

GKデザイングループ代表的作品のいくつか

Q6 あなたにとって、間接照明とは?

人にかけがえのない「考える時間」を与えてくれる装置だと思います。現代は、考える時間が持てない時代です。便利で多様な道具に囲まれることによって、人はなにかしら道具に動かされている。仕事もそうです。ぼーっとする時間がなくなりました。この失われた「考える時間」を用意してくれるのが、間接光なのではないでしょうか。古人は月の下で「自分はなぜ生きているのか」「何のために生きるのか」ということを、多分に語っていたのではないかと思う。間接照明の下では人はそういう気持ちになれる。かつて月が担っていたように、間接光は貴重な時間を与えてくれる。まずは家庭の灯りを間接照明にすることをおすすめします。僕も3年前にこれを実践して、家族からは「暗い!」「陰気くさい!」とさんざん非難されましたが(笑)、今ではみな慣れたようで「今日はどこを照らそうか」とその日に合わせて照らす場所を考える楽しみが生まれました。間接照明は、照らされる媒介が持つメッセージを暗喩として読み取る、そういう「送り手と受け手の関係が成立する思考の装置」なんだと実感しました。間接光の下で、今宵も思考を巡らせたいと思います。

interview 日本間接照明研究所
writing 阿部博子

profile
略歴 1979年 愛知県立芸術大学美術学部 卒業後、
GKインダストリアルデザイン研究所(現 GK Design Group)入所
1992年 GKとマツダ株式会社との合弁による株式会社デザイン総研広島移籍
2005年 株式会社GKデザイン総研広島専務取締役を経て代表取締役社長
2012年 株式会社GKデザイン機構(GK Design Group Inc.)代表取締役社長
現在 日本インダストリアルデザイナー協会理事
日本サインデザイン協会常任理事
日本グッドデザイン賞(Gマーク)審査委員
日本デザイン機構 道具学会会員
広島市立大学、愛知県立芸術大学非常勤講師
主な受賞 1995 新交通システム「アストラムライン」にて、通産省グッドデザイン金賞(通商産業大臣賞)、日本サインデザイン(SDA)大賞(通商産業大臣賞) 2002 三菱重工「クリスタルムーバー」車両デザインにて機械工業デザイン賞グランプリ(経済産業大臣賞) 2007 UDX特定目的会社「秋葉原UDXビル環境デザイン計画」にてSDA大賞(経済産業大臣賞)

GK Design Group : www.gk-design.co.jp