vol.2亀井 忠夫Kamei Tadao|建築家
間接照明といっていいのかわかりませんが、しいて挙げるならば、建物がライトアップされた光景はいつも美しいと思います。ヨーロッパの古いゴシック建築やエッフェル塔といった建築物のライトアップも、光源を見せずに建物自体の陰影を映し出すので、一種の間接照明と捉えてもいいのかもしれません。間接照明は対象物を照らすわけで、当然ながら照らされる側が美しくなければ成立しない。そして、素材と光の相性も重要です。ガラスカーテンウォールのような表面がツルっとした現代建築を間接照明で照らしてもあまり効果が得られませんが、古い石造りの教会などは、間接照明があたると素材の陰影が深くなり、建物自体を美しく見せてくれる。そういう建築と光の相乗効果を味わえるライトアップにはつい目を奪われてしまいます。
間接照明計画の肝は、光源が見えないようにすることです。とはいえ、注意していてもある角度からはチラっと見えてしまう、という苦い経験を設計者なら誰しも一度は味わっているのではないでしょうか。私も失敗の経験があります。特に入り隅、壁の曲がる箇所で、設置した器具が思わぬ角度から見えてしまう場合がある。基準断面は『間接照明読本』などを参考にしているんだけれど、コーナー部では遠くから見えてしまう。ですから、どの角度からでも光源が見えないようにするチェックを怠らないように配慮しています。また、シームレスラインは問題ないけれど、それ以外の器具を使う場合はジョイントの影が出ないように、現場のモックアップをつくって事前に検証するようにしています。間接照明の設計は失敗から学ぶところが大きい。それも設計者にとって必要な試練なのかもしれませんね。
「虎ノ門琴平タワー」は、敷地内に神社と参道を持ち、その上に高層オフィスビルを建設したプロジェクトです。オフィスの足元を高さ約10mのピロティにし、この部分が参道の役目も果たしています。参道にふさわしい光で照らしたいと考え、エレベーターシャフトや階段が内包されたコア部分を光壁とすることに。神社から和風のイメージが浮かび、白い障子のように見せたいと考えました。光壁の表面は半透明のガラスとしています。光源は、水銀灯系で、高さ7m×奥行40mの光壁を障子のように均質に照らすために、照明デザイナーと相談しながら、試行錯誤を繰り返しました。ガラスの後ろから直に投光すると光源のシルエットが見えてしまうため、器具自体は天井裏に仕込み、上からの光だけで光壁をつくりました。ガラスの内側の壁は、障子のような光り方を探り、さまざまな素材を用いて反射の仕方を検証しました。結果的にアルミホイルのような銀色の素材にすると光がバウンドして拡散し、障子の灯りを一番再現していたので、これを採用しています。同じ製品でも、電球ごとに微妙に色ムラがあるので、同じ色に合わせていく作業が難しかったですね。
「パシフィックセンチュリープレイス丸の内」は、昼も夜もガラスの箱が浮遊しているような建築を目指しました。ガラスカーテンウォールのビルの場合、夜は階層をつなぐスパンドレル部分が影になり、外から見ると縞模様に見えてしまいます。夜も昼と同じガラスの箱のイメージとして映るように、スパンドレル部分を表面からできるだけ内側にセットバックさせて、そこに光ファイバーの間接照明を取り入れました。当初、デコラティブな演出照明によって建物を目立たせたいというクライアントの希望がありましたが、私は昼間に見えるガラスの箱のような建築の本質的なデザインを夜でも展開したいと考え、均質な光の箱を提案したところ、理解していただき実現に至りました。また、低層部の照明の色温度を低くし、上部のオフィスの色温度と差別化することで、視覚的なフローティングの効果を狙いました。
「TK南青山ビル」では、屋外の隣地との間の壁面を下からアッパーで照らす間接照明を設置しています。そして光が呼吸しているような動きをプログラムで制御しています。壁面にはPコンの穴を利用して小さな金物の突起物を取り付け、照明があたる度に、金属に光がキラッと輝く仕掛けを考えました。
略歴 | 1977年 | 早稲田大学理工学部建築学科卒業 |
1978年 | ペンシルベニア大学修士課程修了 | |
1977-78年 | HOKニューヨーク勤務 | |
1981年 | 早稲田大学大学院(穂積研究室)修士課程修了 | |
1981年 | 日建設計に入社 | 2015年 | 同社 取締役常務執行役員を経て、 代表取締役社長 |
主な プロジェクト |
東京スカイツリー、議員会館、パシフィックセンチュリープレイス丸の内、さいたまスーパーアリーナ、虎ノ門琴平タワー、ミッドランドスクエア、クイーンズスクエア横浜、JTビル、日建設計東京ビル、TK南青山ビルなど |