THIS  MONTH  INTERVIEW

vol.12志村 美治Yoshiharu Shimura|インテリアプランナー

Q1 間接照明はすきですか?

僕が目指すのは、理屈や狙いが見えないデザインです。「無作為」という言葉がありますが、「俺がデザインしたぞ」と主張する空間ではなく、何度となく行きたくなる、そういう空間を作りたいと思っています。そういう意味で、間接照明も意識外から入ってくるものだと捉えています。間接照明について感じるのは、単純に「好き」という感情よりも、「大事にしている」という感覚かな。手品と一緒で、デザインも手の内は見えない方がいい。そういうデザインを一生かけて目指している、今もその道の途中にいる、という感じですね。

Q2 今まで、一番美しい、かっこいい、感動を覚えた間接照明は何ですか?

間接照明を広義で捉えたいのですが、日本はアメリカや中国といった大陸とは、気候が異なり、山に奥行きがあるように見えるのは、湿度があるからです。湿度がある空気に反射した光をひとつの間接照明と捉えるならば、それが日本ならではの一番美しい風景だと思っています。それから、インテリアデザインには滅多に使わないけれど、ブルーの光がとても好きですね。湿度とブルー。これが混じりあった光景は、欧米にはない日本独自のまとわり感とでもいうのかな、エロチックでミステリアスな、不思議な感覚を思い起こさせる。だから何度でも見たいと思うのです。
最近、仕事で訪れた京都の天橋立に行った時に見た風景も強く印象に残っています。冬のあまり天気が良くない日に、湿度が高くて空気がモヤモヤとしてそこに光が反射して奥行きを感じさせ、海と山と空が混じりあっている夕暮れの光景は実に神秘的で美しかった。僕はこの湿度とブルーが混じり合う光景が自然が生み出した最高の間接照明だと思っています。
人工的な間接照明としては、ピーター・ズントーが設計した、ドイツのケルンにある「聖コロンバ教会ケルン大司教区美術館」も忘れられません。とても古い教会で、遺跡のようになった建物を何回も発掘し、そこにグレーのレンガで囲い、教会遺跡を保存しながら美術館としても使用されています。特筆すべきは、外壁もインテリアもグレーの一色だけで構成されていること。ざらざらした外壁、光沢のある床、風のようにふわっと漂うカーテンなど、一色しか使っていないけれど、そこにマテリアルの質感が加わることで多様な表情を見せてくれる。まさに”1カラー5マチエール”を体現した建築と言えるでしょう。外からの自然光と収蔵品を美しく照らし出すテクニカル照明が調和していて、ここは、久しぶりにドキリとさせてくれた空間でした。それから、この建物は実に複雑な動線ですが、視線の向こうから反射した光が見えるため自然と人はそこに向かうので、光がサインの役割も果たしている。光の動線、とでもいうのかな。とてもよく考えられた建築でありながら、ファジーな部分もあって心が惹かれる空間のひとつです。

聖コロンバ教会ケルン大司教区美術館 展示室

Q3 間接照明の肝、または苦々しい思い出を教えてください

照明を甘くみると必ず失敗するので、僕は必ずライティングデザイナーと組んで照明計画をするようにしています。自分でやっていた時代もあるんですが、間接だから全体に反射するだろうと自己流で計画すると影が出てしまったり、RGBの配色を間違うとプリズムの光が出てしまったり。施工図の確認を怠り、電気工事の職人とのコミュニケーションを怠るといい事は何もないですね。僕は物質感を出すというよりも、光の質でドキッとする部分を大事にしたい。床壁天井で構成して家具を置くまでが前座で、そこに光を入れるのが本番というくらい、ライティングには細心の注意を払っています。僕がよく仕事を依頼するライティングデザイナーの東海林靖弘さんとは10年来のつきあいということもあり、デザインが出来た段階で依頼するのではなく、何もない段階から「このプロジェクトはどうあるべきか」というところから話して、そこから意見を交わし、アイデアを積み上げて空間を作り上げていきます。最近はそういうプロセスを楽しみながら、プロジェクトに望んでいます。

Q4 これまで手がけた作品と照明計画のポイントを教えてください

「デンタルプラザ福岡」は、歯科医療器械、器具・材料・情報機器を展示するショールームです。弊社の仕事は建築に近い所から入ることが多いので、商空間のインテリアを数多く手掛けているわけではありません。だからステレオタイプにはまらないデザインを発想しているように思います。ここでは、テクノロジーは進歩し、展示する器械のスタイルは変わっていくけれど、企業に流れるフィロソフィーは変わってはいけない、、、そのことを大切にし、10年20年と使える空間にしたいと思って設計しました。出隅入隅がない空間になっていて、床も壁も天井もエッグシェルホワイトで統一、間接照明によってインテリアエレメントの表面を光が拡散し、物質感を消しています。パーティションとなっている什器は、オリジナルで制作したもので、ここにも間接照明を内蔵しました。

デンタルプラザ福岡
撮影:後藤晃人

デンタルプラザ福岡
撮影:後藤晃人

Q5 今後の夢を教えてください

デザイナーって、医師と似ていると思います。患者が何を望んでいるのか、ちゃんと分析して最良の治療をする。不都合に感じていた空間を治療し、また予防していくと無駄な投資をしなくても済む。しいては社会全体の生活や文化水準が上がっていく。それが僕の夢ですね。そういう意味で、長いお付き合いをしているクライアントに静岡県の木材メーカーの「マルホン」があります。世界中から良質の無垢材を取り寄せている同社は、「設計者や工務店が使用するためにやり過ぎてはいけない。我々はあくまで素材屋です」といい、そうした考えの基にショールームをつくっていきました。ビジネスの形も決まっていない中で、社長、店長、プロデューサー、マーケティングデザイナー、CIを担当したグラフィックデザイナー、そしてインテリアデザイナーが集まって毎週会議をして、新しいビジネスを形にするためにそれぞれの立場から意見を述べて、ビジネスツールとしてのショールームのあるべき形を構築していきました。デザインのためのデザインではなく、みんながひとつの目的を持って、専門的な角度からアイデアを出してひとつデザインしていく。ここでは、床壁天井をさまざまな木材で構成して木に包まれる気持ち良さや匂いを体感できる空間にしました。夢って一歩一歩階段を昇っていった先に残ったものなのかもしれない。最近はそう思うんです。10年20年、こういうお付き合いをしながら、みんなでより良い空間をつくっていくこと。それが今の夢です。

マルホン東京ショールーム「MOKUZAI.com」
撮影:後藤晃人

マルホン東京ショールーム「MOKUZAI.com」
撮影:後藤晃人

Q6 あなたにとって、間接照明とは?

意識外のものでありながら、常に自分の身の回りにあるけれど、精神状態によって変化してくれるもの、かな。スポットライトがビシッと当たる空間は自分の精神状態が良くも悪くも印象は変わらないけれど、間接照明って気分がいい時はその感情を増幅してくれるし、落ち込んでいる時には「元気になって」と励まされているように、その時々で変化しているように思うんです。間接照明は、僕にとって非常にフレキシビリティな存在。まるで生き物のようですね。だから面白い。そして、相互関係があってこそ活きてくるもの。そこをコントロールするのがデザイナーの役目であり、使命だと思っています。

interview 日本間接照明研究所
writing 阿部博子

profile
     
略歴 1979年 武蔵野美術大学大学院造形研究科修了(工芸・工業デザイン学科)
1979-1989年 清水建設株式会社 建築設計本部勤務
1985-1986年 チャダ,シィエンビエナアソシエイツ(シンガポール)
2014年より 株式会社フィールドフォー・デザインオフィス 代表取締役
教職 2014年より 武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科 客員教授
2006年より 共立女子美術大学 非常勤講師
資格 インテリアプランナー
主な受賞 2010年「アルケアふくろうハウス」JCD賞(銀賞)・グッドデザイン賞(建築・環境デザイン部門)、2012年「デンタルプラザ福岡」JID賞(大賞)・インテリアプランニングアワード(優秀賞)、2014年「京橋こども園」第8回キッズデザイン賞(優秀賞 少子化対策担当大臣賞)・省エネ照明デザインアワード2014 公共施設総合施設部門(グランプリ)・IALD(Award of Merit)、2014年「シュアリーフ西船橋グレースノート」インテリアプランニングアワード(特別審査員賞)、2015年「モクザイ・ドットコム」JCD賞(銀賞・審査員賞)

FIELD FOUR DESIGN OFFICE: www.field4.co.jp