THIS  MONTH  INTERVIEW

vol.11国府田 道夫Michio Koda|建築家

Q1 間接照明はすきですか?

間接照明は、色々なシーンでよく使っていますし、好きですよ。個人的に「いいな」と感じる建築は、昼間の自然光が内部に関与している空間です。一方、夜はその光の代わりをするのが間接照明だと思っています。機能的に明るさを確保するというよりも、空間の質を高めてくれるのが間接照明なのではないでしょうか。

Q2 今まで、一番美しい、かっこいい、感動を覚えた間接照明は何ですか?

今まで、一番美しい、かっこいい、感動を覚えた間接照明はなんですか? 忘れられないのは、スウェーデンの建築家、エーリック・グンナール・アスプルンドが設計した「ストックホルム市立図書館」です。この建物は、中央のサスペンディッド以外は間接照明によって灯りを担保しています。書架の上部の壁を照らす上向きの間接照明が非常に効果的で、開口部から入る自然光と相まって、柔らかい光の分布によって大空間をまるで屋外にいるような自然で明るい光に包まれる優しい雰囲気となっています。また、書架の前面に下向きに照らされた照明によって、円形に並べられた本棚がはっきりと浮かび上がり、より一層印象的な空間に仕立て上げています。そして、壁に付けられた凸凹の模様に間接照明の光が反射してたなびく雲のようでとても美しい。初めてこの建築を見たのは、今から20年前です。この空間に一歩足を踏み入れて上を見上げた瞬間、思わず「あーっ」と感嘆の声を漏らしたほど。5年前に再訪したのですが、やはり空間に圧倒されて「ああ、いいな」と感動しました。空間の光の分布は、頭より高い位置にある大きな面が柔らかく光っているのが良いと強く感じました。このことは、後述する「北國銀行本店ビル」の間接照明計画においても、大きな影響を与えていると思います。
もうひとつとても好きな間接照明が、映画「ブレードランナー」のワンシーン。舞台は近未来。主人公を演じるハリソン・フォードが自分のアパートに帰ってくると、ふわーっと照明が立ち上がってくる。実際に撮影に使われたフランク・ロイド・ライト設計のエニス・ブラウン邸のインテリアもかっこよくて、光と空間によって近未来へのイメージが広がりました。若い頃に映画を見て「この照明はどんな仕組みなんだろう?」と想像してワクワクしたのを覚えています。思い返してみると、一見しただけでは分からない、建築の納まりや光源の置き方など「どうなっているのだろう?」と想像が膨らむ空間に魅力を感じています。

ストックホルム市立図書館

ストックホルム市立図書館:吹き抜けの円形ホール

国府田氏のスケッチ

Q3 間接照明の肝、または苦々しい思い出を教えてください

間接照明が難しいと思うのは、天井や壁を照らした時に空間に対する光には問題はないけれど、そこに人や物が入ってきた時にその表情などが相対的に暗くなってしまうこと。設計段階では、間接照明の光が回り込んで、人や物を照らしてくれるだろうと期待をしてしまうのですが、そうはうまくいかない。逆光のようになってしまうというか…。その辺りのさじ加減が非常に難しいですね。また、高い位置の天井に間接照明を入れると特に夜間は白々しい感じになってしまう。おそらく、これは昼と夜とで、人間のモードが変わることに影響しているのかもしれません。昼は空間全体が明るくてもいいけれど、夜は重心が低い光のほうがいい。夜も煌々と天井面を明るくするというのは、人類の歴史の中においても最近になってからですし、そうした照明の慣例は、見直す時期に来ているのかもしれませんね。

Q4 これまで手がけた作品と照明計画のポイントを教えてください

「シンクロン 本社ビル」は2008年に竣工した、弊社が設計したオフィスビルです。シンクロンはレンズや眼鏡の表面に真空蒸着膜という金属の膜を作り、有害な光線を取り除く特殊技術を持っています。そこで、その技術を綺麗なガラスのカーテンウォールによって表現し、ダブルスキン構造に仕上げました。サッシュの内部には電動のブラインドを入れて日光をコントロールし、断熱性に優れ、省エネ効果も高い建築になっています。夜はこのブラインドに下からアッパーで光を当てることで、夜間も美しいファサードとして表現したかった。そこで、照明デザイナーの東海林弘靖さんに相談して、ライティングデザインをしていただきました。赤・青・電球色3色のコールドカソード・ランプを入れて、時間と共にじっくりと色が変わっていくプログラミングを行い、夜景としても美しいファサードが完成しました。光の反射を考慮して、ブラインドは一般的な白ではなくシルバーにすることで、深みのある光を出しています。クライアントは光学技術も持っている企業だったため、この演出は非常に喜ばれました。
2014年秋に竣工した、石川県金沢市の「北國銀行本店ビル」でも、ふんだんに間接照明を取入れています。こちらも東海林さんにライティングデザインを依頼した物件です。北側に高さ17mの吹き抜けがあるエントランスは、寒さの厳しい金沢の気候に配慮した風除室の役目も果たしています。エントランスは、暖色系の間接照明によってお客様をお迎えし、温かい気持ちになっていただいてから、営業室に入っていくような照明計画としました。夜は金沢の加賀格子をモチーフにしたファサードが温かみのある間接照明に浮かび上がって街を照らし、周囲に開かれた銀行というメッセージも表現しています。営業室も北側に面していることから、昼間も一定の照明の明るさが求められました。一般的に、銀行の営業室は大切な書類の内容を間違えないように、1000lx以上の照度が必要と言われています。その場合、広い空間にダウンライトをたくさん取り付ける手法が考えられるのですが、僕はダウンライトが嫌いだからそうしたくなかった。ダウンライトは非常に輝度が高いため、見上げると眩しいですし、大空間にたくさんのダウンライトをつけてしまうと空間が破壊されてしまう。そこで、東海林さんに相談しながら、サークル型の間接照明のペンダントライトを天井から吊り下げました。光源はLEDで手元も天井も照らし、十分な照度も確保しています。サークル型は丸みがあり親しみのある形で、間接照明だから眩しくない。常々、大空間の照明はダウンライトを主体とせざるを得ないと悩んでいたので、この挑戦は今後の設計のヒントにもなる非常に有効なモデルケースとなりました。

シンクロン本社・R&Dセンター
撮影:金子俊男

北國銀行本店ビル:エントランス
撮影:金子俊男

北國銀行本店ビル:営業室
撮影:木田勝久 / FOTOTECA

Q5 今後の夢を教えてください

昔、東海林さんが「照明とは光源が見えない方が絶対にいい。光源が見えていいのはキャンドルだけ」とコラムに書いている言葉に共感しました。ダウンライトが嫌いなので、日常生活のすべての照明が間接照明になれば面白いな、と思っています。例えば、駅のホームや電車の中、オフィスも店舗も、そして住宅も。そうすれば、一人ひとりの気持ちも柔らかくなるのではないかと思っています。実際に、自宅でも間接照明を取入れて実践しています。昔から、夜は天井面を照らすよりも、低い位置を照らした方が心地よい空間になると考えていたので、夜家族が集まる部屋には、床から80cm程の高さを間接照明で照らしています。すると、家族は光の下に寝そべって宿題をしたり本を読んだりして、いつのまにか、夜は家族みんなが低い位置で寛ぐようになっていました。低い位置の間接照明は非常にリラックスできるので、夜のシーンにはおすすめです。それから、照明の問題点は電源線を見えないようにすること。電源線を隠すために工事費もかかるので、電源線のない光源の技術革新に期待したいですね。蓄電技術が進歩すれば、例えば昼間にiPhoneのような端末を充電して、夜にそれをポンと置けば間接照明が必要な場所だけを照らすとか。そうなっていくと新しい発想で建築自体も進化していけるのではないでしょうか。

Q6 あなたにとって、間接照明とは?

間接照明は、建築と設備の接点であり、境界線、つなぐものだと思います。川で例えるならば、海水と淡水が混じり合う汽水域のイメージ。入れ替わりながら、協調していく、そんなエリアにあるものだと捉えています。昼と夜、時間によっても変化していくところも面白い。昼の自然光の存在は、建築にとって重要なファクターであるように、間接照明は、夜の“暗さ”を楽しむための明るさと重心のあり方を指し示すものものだと捉えています。そんな間接照明の有り様自体が好きなので、今後も空間と間接照明の相乗効果によって感動が生まれる、そんな建築に挑戦していきたいですね。

interview 日本間接照明研究所
writing 阿部博子

profile
               
略歴 1985年 東京工業大学大学院修士課程修了
1985年 三菱地所株式会社入社
1995年 ペンシルバニア大学大学院修士課程修了
2001年〜 株式会社三菱地所設計
現在 株式会社三菱地所設計 執行役員 建築設計四部部長
主な
プロジェクト
横浜銀行本店(1993年)、HSBCビルディング(1998年)、OAZO丸の内北口ビルディング(2004年)、ブリーゼタワー(2005年)、シンクロン本社ビル(2008年)、豊洲フロント(2010年)、北國銀行本店(2014年)

株式会社三菱地所設計: www.mj-sekkei.com