THIS  MONTH  INTERVIEW

vol.1飯島 直樹Iijima Naoki|インテリアデザイナー

間接照明って人間を、いい意味でたぶらかす存在
Q1 間接照明はすきですか?

間接照明には、ずっと忸怩たる思いを抱いています。わが国のインテリアデザイン史を紐解くと、1960年代は店舗設計に使う光源といえば、シリカ球かビーム球ぐらいしかなくて、反射板制御もほとんどないダウンライトを用いていました。それから100Vのハロゲンランプが登場して、深い光の表現が可能になった。しかし、60~70年代は間接照明という考え方は、まだ日本に定着していなかったように思います。私自身が洗練された照明というものを強く意識したのは、1980年に、京都の国立近代美術館で開催された「浪漫衣装展」でのこと。これは鹿鳴館時代の衣装の展覧会だったのですが、衣装を収蔵するメトロポリタン美術館が米国から連れてきたインテリアデザイナーや照明デザイナー達は、真っ暗な空間での展示を行いました。日本であれだけ暗い空間で展示をしたのはおそらく初めてのことでしょう。暗闇に目が慣れてくると、ローボルトのハロゲンランプの光が繊細なドレスのフリルに透過して、衣装を美しく照らし、幻想的な光景が浮かびあがってきました。欧米に端を発する繊細な光の世界を初めて味わった瞬間でした。

Q2 今まで、一番美しい、かっこいい、感動を覚えた間接照明は何ですか?

森田恭通さんに代表される、間宮吉彦さん、辻村久信さんといった、90年代に登場した関西のインテリアデザイナー達が手がけた飲食店の照明演出です。彼らは突然現れた間接照明の王者。特に飲食店で下からアッパーの間接照明で上部を照らしながら、上からの照明の照度を抑えると、上下の光に包まれているような感覚が味わえる。そういう効果を生み出した彼らの手腕には驚かされましたね。暗い店内に、集光型のローボルトのダウンライトで結構強い光の間接照明を入れていくと、空間が深くなるのです。すると飲食店にほしい緊迫感やドキドキ感が生まれる。明るくすると気分がしらけるに決まっているから、この手法はずるい(笑)けれど、彼からの仕事がわが国の間接照明の転換期であったことは間違いありません。

Q3 間接照明の肝、または苦々しい思い出を教えてください

僕が在籍していた'70年代のスーパーポテト(∗注釈)は、照明で面白いことをやる集団という認識をされていたように思います。思い出深いのが、「パーラーストロベリー」という、渋谷西武百貨店の中にあった喫茶室のデザイン。壁と天井をすべてステンレスで覆い、中央に大きなガラステーブルを配置した空間です。照明は、天井に穴を開け、直径3mmの模型用電球を約2万個埋め込み、その灯りだけで店内を照らしました。ガラステーブルとステンレスに電球の光が反射すると、幻想的かつ緊張感のある空間が現れた。照明と素材の組み合わせによる化学反応を目の当たりにした思い出深い経験です。
私は、間接照明を諸刃の剣だと思っています。間接照明は、極めて人間の視覚に対して効果的でいい印象を与えます。鉛直面が明るくなるというのは内部空間にとって非常に効果的ではあるけれど、しっかりとした骨格や構成をしていなくても、間接照明を使っていればそれなりにいいムードが作れると安易に考える人も少なくありません。きちんとした空間構成や素材選定を行った上で、効果的な間接照明を使うことをデザイナーは肝に銘じてほしいと思っています。

パーラーストロベリー<1976年> 撮影:白鳥美雄

Q4 これまで手がけた作品と照明計画のポイントを教えてください

9年前から手がけている仕事のひとつにオフィスビル「PMOシリーズ」があります。ビルのフィサードとエントランスは、施設のアイデンティティとして、全シリーズで一貫した照明計画を踏襲しています。ファサードには光壁を採用しているのですが、これまで色々な光源で実験を繰り返し、理想とする光壁を模索してきました。面光源のLED、シームレスタイプのLEDなどの光源を変えながら、さらに反射板の素材や角度を変えて試しています。光源の形が見えたり、光が均一になると安っぽい雰囲気になるので、日本的な奥ゆかしい光、「行灯」のような光壁を目指して、毎回試行錯誤を繰り返しています。また、エントランスのスクラッチ加工を施した石の壁面は上部から床のラインまでシャープな光が照らして、垂直面を全般に明るくする間接照明を用いています。これが毎回調整が難しくて、同じ間接照明を使っても、寸法の違いや壁材の素材が違いによって床まで光が届かないこともある。だから、他のPMOシリーズに器具を持ち込んで実験をしながら光源の器具選定をするようにしています。

PMO八重洲通<2013>
撮影:Nacása & Partners inc.

Q5 今後の夢を教えてください

おそらく、今後は照明に限らずあらゆる設備が技術的には進化するはず。例えばLEDがインターネットとつながったり、スイッチというものがなくなって別の操作の仕方が生まれたり、インフラ自体が変わったら電源の供給方法も変わるでしょう。そうなると従来の建築設計やインテリアデザインの発想の仕方ががらりと変わるはず。そういうまだ経験したことのない空間を見てみたいですね。

Q6 あなたにとって、間接照明とは?

人間を、いい意味でたぶらかす存在。視覚的には気づかせないけれど、知らず知らずに脳に作用して、人間の精神や身体を手なづけるものだと思っています。直接ではなく、文字通り間接的に…。

∗インテリアデザイナー、杉本貴志が主宰するデザイン事務所。

interview 日本間接照明研究所
writing 阿部博子

profile
略歴 1973年 武蔵野美術大学造形学部産業デザイン科 工芸工業デザイン専攻卒業
1976-85年 スーパーポテト
1985年 飯島直樹デザイン室設立
2004年より 社団法人日本商環境設計家協会 理事長
2008年より KU/KANデザイン機構 理事長
2011年より 工学院大学建築学部 教授
主な
プロジェクト
ARAI(和食店)、内儀屋(和食店)、ソニアリキエル(ファッションショップ)、5Sニューヨーク(化粧品店)、新文芸坐(映画館)、スタージュエリー 六本木ヒルズ(ジュエリーショップ)、SHUNKAN BACCARI DI NATURA(レストラン)、ブルーポンド ソウル(広東料理店)、コレド日本橋妻家房(韓国料理店)、東京糸井重里事務所(オフィスデザイン)、ワタベウエディング上海(ウエディングサロン)、新宿高島屋(環境リノベーション)、PMO(オフィスビルプロジェクト)、Ao(青山Aoビル商環境計画)、トータルワークアウト六本木ヒルズ(スポーツジム)など
著書 飯島直樹のデザイン「カズイスチカ」臨床記録1985-2010/2010年平凡社発行
ゼロ年代 11人のデザイン作法(共著)/2012年六耀社発行
講演 「Dynamic State」/IFI International Federation of Interior Designers/Architects Dubai 2009

IIJIMA DESIGN:www.iijima-design.com